【CoCリプレイ】Haunting in Tokyo ②【現代】
2016年8月21日 TRPGリプレイ《プロローグ2》
午前9時、大勢の人々が行き交う交差点を、巡査である坂本は眺めていた。
喧騒の中、汗を流しながら、出勤や遊びのために人は炎天下の中を行き来している。
ボーっと、頬杖をついて座ってる坂本に一人のスーツ姿の男性が声をかけてきた。
「よう、坂本!」
「あ、お久しぶりです、センパイ!」
黒峰雪路、警察の先輩であり、28歳で警視正の座に登りつめた逸材。
坂本からすると、5も年下ではあるが、尊敬してやまない先輩だった。
過去の事件で世話になり、それからたまに呑みに行ったりする間柄だった。
「ちょっと、捜査を頼みたくてな。」
「いいですけど、俺今交番から動けないっすよ?」
「あー、大丈夫だ、すぐに代わりの者が来る。着替えて、一緒に来てくれ。」
そういうと黒峰は、乗ってきた車の運転席に乗り込む。
続いて、スーツ姿の坂本が助手席に乗り込んだ。
「行き先はどこっすか?」
「警察病院だ。昨夜遅くに、変わった…と言っちゃなんだが、奇怪な患者が搬送されてきてな。病院側も我々もどうしていいのかわからなくなってる。で、俺が信頼の置ける、加えてフットワークの軽い人間に捜査を頼むことにした。」
「センパイが直接来るってことは内密にってことっすよね?任せてくださいよ!で、
患者は何が奇怪なんです?」
「百聞は一見に…と言うだろ。自分の目で確かめてくれ。」
幾許か走ると二人は警察病院に着いた。
受付で黒峰が名を伝えると、奥まったところにある診察室に通される。
そこには坂本の後輩にあたる渡会がいた。
「お、渡会。お久しぶり。」
「坂本さん、お久しぶりです。」
「で、患者ってのは?」
「こちらです。」
そう言って渡会がひいてあったカーテンをめくると一人の女性がベッドの上に横たわり、眠っている。
一見、どこにでもいそうな今時の若い女性だが、その左腕は、肘から先が二股に分かれ、分かれた先のどちらにも掌と指が存在していた。
「お、おぉう…。なんじゃこりゃ…。」
坂本が恐怖の混じった嗚咽を漏らす。
「今は鎮静剤を打って安静にしてあります。バイタルサインもほぼ問題なく、軽く調べてみましたが、二股に分かれている以外は健常者のそれと遜色はありませんでした。」
「お、おう。」
「被害者とさせてもらうが…被害者は大倉 讃良(オオクラササラ)、19歳。フリーターで八王子市在住。深夜2時頃にここに運ばれてきたが、その時から意識は戻ってない。救急に電話した人物は被害者とは別の人物のようだ。なにせ、今朝この話を受けてドタバタとしていたもんでこの程度しかわかっていない。」
と黒峰が口を挟み、続けた。
「この件の原因を坂本に調べてもらいたい。詳しい話は救急隊員の斎藤さんという者に連絡を取って確認してくれ。それと渡会先生、坂本と知り合いなら協力してやってくれないか?君の上司には俺から話を通しておこう。」
「わかりました、ではこのまま坂本さんの捜査に協力します。」
「渡会が一緒なら怪我しても問題なさそうだ。」
「急で申し訳ないな、二人とも。」
黒峰が頭を下げる。
坂本と渡会は、快く承諾したものの、様々な不安が頭の中を渦巻いていた。
「あー最後に。この件の捜査に使った費用は全部請求してくれ。それと特別手当も用意させてもらう。人員が足りないようなら、そんなに大勢は動かせないが、多少なら俺の使える駒を手伝いに向かわせよう。それじゃ、頼んだぞ。」
そう言って、黒峰は去っていく。
「さて」
と渡会が口を開いた。
「どこから手をつけましょうか?」
坂本は、先ほどの恐怖など忘れたかのように被害者の左手をまじまじと真剣な表情で眺めている。
「生物学的にありえないんだろ?こうゆうのは。」
「もしかしたら人間より原始的な生物であればあり得るのかもしれません。確証はどちらもないですが…。
可能性の一つとしてはndk遺伝子…ノウダラケ遺伝子というものが考えられますね。」
「ノウダラケ?脳だらけなのか?」
「歴とした遺伝子の一つです。ジョークではありませんよ。ナミウズムシってご存じですか?」
「知らん!」
「プラナリアってやつです。」
「ぷあらりあ?美味いのか?」
「扁平動物門ウズムシ綱同目同亜目に属する動物の総称をプラナリアというんです。とんでもない再生能力を持ってるんですが、ナミウズムシの実験で言えば、体を前後3つに切ると3匹のナミウズムシになり、縦に腹部まで頭を半分に切ると、頭が2つになるんです。
これに関してはなんらかの体内物質の濃度勾配からの〈極性〉ではないかと考えられており、これを司るのがノウダラケ遺伝子というわけです。
ndk蛋白質は頭部領域に存在し、前提としてのFGF…繊維芽細胞増殖因子受容体にFGF受容体結合因子が結合して細胞そ神経細胞として運命付けるという考えがあるのですが、このFGF受容体結合因子を頭部領域外に拡散するのを抑制するという働きがあると提唱されています。その為、その抑制が効かなくなるとFGF受容体が体の末端でも結合して、頭部や尾部が再生される…ということになりますね。逆にnns遺伝子、ノウナシ遺伝子というのもありますが…。」
「よくわかった。お前の話がわからないということがな。だがまぁ、動物の神秘ってことだろ?要約すれば。」
「そうなりますね。」
「OKだ。俺はフットワークを買われてる。現場百回とはよく言ったもんだ。とりあえず斎藤って人に連絡をして現場に行ってみるぞ。」
「了解です。では着替えてきます。」
「俺はセンパイに足の手配と、斎藤さんとやらに電話をしておく。駐車場で落ち合おう。」
「わかりました。」
そう渡会は言うと、いそいそと着替えに向かう。
坂本は駐車場に出て、黒峰に連絡をいれ、斎藤の所属している救急隊へと連絡を入れる。
救急隊のオペレーターと電話がつながる。
「どうされましたか?」
女性の声が聞こえる。
「わたしだ。」
と坂本は電話口に言い放つ。
「ど、どちら様でしょうか?」
「あ、私警視庁の坂本と申しますが、昨晩の緊急搬送を担当された斎藤さんをお願いします。」
「かしこまりました、少々お待ち下さい。」
少しすると、男性の声が聞こえてくる。
「お疲れ様です、斎藤です。」
「お疲れ様です。昨晩の件で詳しいお話をお聞きしたいのですが。」
「はい、黒峰警視正からお話は伺っております。昨晩1時頃こちらに入電しまして、電話口の方は山縣 景子さん、女性の方でした。鉱山の方に肝試しに行ったところ、友人が白目を剥いて倒れたという事だったので救急隊がすぐさま急行、入電後30分経過したところで、鉱山の入り口のところに倒れていた大倉さんを発見。直ちに救急搬送を行うとともに、連絡をくれた山縣さんが見当たらないので、連絡を入れてみても音信不通だったということになります。」
「倒れていた大倉さんの腕は、そのーなんというか…」
「ご確認されてると思いますが…」
「分かれちまってたと。山縣さんの連絡先をお願いします。」
「xxx-△△△-ooooです。」
「その鉱山の名前は?」
「谷郶鉱山跡地が正式名です。」
「ありがとうございました。助かりました。」
「いえいえ、また何かあればご連絡ください。」
そういって電話が切れる。
着替えを終え、合流した渡会とともに、黒峰の寄越してくれる車を待つのであった。
《プロローグ2〜終〜》
【CoCリプレイ】Haunting in Japan ①【現代】
2016年8月21日 TRPGリプレイ~登場人物~
・昭島 翔太(Author:クロノス)
男性・27歳・闇医者(無免許)
・坂本 太郎(Author:mo-ry)
男性・32歳・警察官(巡査)
・渠上 淳(Author:atsushim)
男性・31歳・ハッカー
・堀 砂川(Author:黒)
男性・22歳・ギャング
・渡会 はじめ(Author:TOM)
男性・26歳・医者(警察病院勤務)
≪プロローグ1≫
8月中旬。
昼は太陽が照り、焼けるように熱く、夜は蒸し暑い。
その蒸し暑さの中、立川のとある裏路地を1人の男が、人を担いで歩いていた。時刻はすでに深夜2時を回っていた。
地を擦るような長く太いジーンズ、肘を超す長さのTシャツを着た男。
明らかにガラの悪いその男は裏路地にある一軒の薄暗い明りのついた家の戸を叩く。
「先生!ツレが変なんだ!ちょっと診てくれ!」
建物からは反応がない。
男は戸を叩き続ける。しばらく叩いていると中から白衣を纏った小柄な男性が出てくる。
「なんだ、堀。うるせぇな。今何時だと思ってやがる。」
「先生、いるならすぐ出てきてくれよ!コイツの手が変なんだ!」
「めんどくせぇ。とにかく中に入れ。」
と白衣の男は言った。
中はやはり薄暗く、そして薄汚れており、先生と呼ばれる男がいるような場所には到底思えない。
ガムテープで補修された手術台のようなもの、空き缶の積まれたデスク。
その横の作業台には怪しげな薬品のビンと年季の入った医療道具の数々。
先生と呼ばれている男は免許の無い医師、昭島翔太。
「台に寝かせろ。で?何が変なんだ?」
「コイツの指先だよ!なんか透けてんだよ!」
台に寝かされた男の指先は、向こうが透けて見え、影のような靄がかかり、手首から先全体が霞がかっていた。
「…なんだこりゃ…。初めて見るな。この道に入って5年ほどだがこんな患者は初めて見るな…。」
「今は寝てるのか気を失ってるのかわかんないけど…と、とにかく治してやってくれよ!」
「…。」
昭島はしばらく黙りこくったあと、ゆっくり口を開く。
「治せるとは思えないが、やってやる。しっかり金もとる。とりあえず前金で10万。治療が終わったら100万。コイツのことで知っている範囲ですべて話せ。以上のことがすべて飲めるなら、やれるだけのことは…やってや…いや、うーん…てかこれ治るのか?」
「金なら払うから!頼む!頼れんのが先生しかいないんだよ!」
「わかった、わかったから静かにしろ。ったく、ムチャ言いやがって…。治せる確率は0.000000000001%くらいだし、多分これ医学関係ねぇし、もう霊媒師とかに診てもらえってレベルだけどな。クワガタのために金はほしいから、いろいろ調べてやるよ。」
「クワガタ?」
「おう、昆虫だ。」
「好きなのか?」
「まぁな。
とりあえずこいつの名前とか、職業とかそーゆーの全部言え。」
と言って紙とペンを取り出す。
「名前は生田 武士(イケダタケシ)。俺とタメ。仕事はコンビニでフリーターやってて、同じチームのツレだよ。」
「チームってのはあの、不良軍団のことか?」
堀は黙って頷く。
「なんか心霊スポットなんか怖くねぇって言って、一人で行って帰ってきたら様子が変でさ。んで倒れちまったから連れてきた。」
「もう何がなんだかわからんが、こうゆうのは寺とかに隔離されるやつなんじゃないのか?」
「わかんねぇ。」
昭島が無言で頭を掻き、唸りを上げて、首を傾げて悩んでいると、生田が目を覚まし、自分の置かれている、なんとも理解し難い状況に悲鳴を上げ暴れ始めた。
「おい武士!落ち着けって!無理かもしんねーけど!」
と堀が組み付く。
しかし生田はそれを振りほどき、「あんた医者だろ!どーなってんだこれ!早くこれを治してくれ!」と昭島に対して吠える。
「うるせぇし面倒くせぇ。少し静かにしとけ、タコ。」
そういうと昭島はおもむろに注射器を生田の首に突き立て、中の液体を注入した。
生田は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
「…!先生まさか殺したのか…?」
「麻酔。それもアホみたいに強力で象とかエドモンド本田でも24時間くらいは目覚めねぇやつ。ワンチャン…死ぬ。」
「死ぬって…マジかよ!」
「安心しろ、冗談ではないが、死んだらまぁ…金はいらん。」
手術台に生田を乗せ、二人の間に沈黙が続く。
生田の手は手首のあたりで影のように透けてきていた。
~♪♪~♪~
堀のスマホの着信音が静寂を破る。
画面には“渠上さん”と表示されている。堀は一瞬、ギョっとした表情したあとに電話に出る。
「お疲れ様です!ミゾさん!」
「お~う、堀かー?今大丈夫かー?」
「大丈夫っす!」
「この前の仕事の金、まだー?」
決して怒っている口調ではなく、やわらかい口調で溝上が続ける。
「急ぎではねぇんだけどさー、忘れてんのかなーって思ってさー。」
「あ、す、すいません!すぐも持っていきます!!」
「え?なに、今から来んの?別にいいけど。」
「すぐ向かいます!」
堀の顔には焦燥が見える。
電話を切った堀は、財布から10枚の諭吉を昭島に渡す。
「先生、明日の朝来るからそれまで武士をよろしく!」
と言って早足に昭島の住処を出ていく。
「あ、おい!こんなイカれたヤツの相手を俺一人にって…、あの野郎…。」
昭島はそう吐き捨てると、拘束具のようなもので生田の胴体を拘束し、点滴のようなものを取り付け、椅子にかけ、外を眺める。
「…はぁ。とんでもねぇな、畜生。…寝るか。」
昭島は診療室を後にし、自室へと戻っていった。
その頃、堀は渠上の住む六本木へとバイクを飛ばしていた。
時刻は3時半を過ぎた頃、堀は渠上の住むマンションの一室に入っていった。
「すいません!遅くなっちゃって。」
堀は財布から札束を渡す。
ソレを受け取った柔和な顔つきの男は渠上 淳、裏の世界では名の知れたハッカーだった。
「…17、18、19、20。ん。しっかりと。」
「ほんとすいませんでした。」
「あー急かしたようになってごめんなー。そんなつもりはなかったから安心してくれな?まぁ、バックれたら、お前の個人情報が世界に拡散されるだけだ、心配するな。」
と笑いながら渠上は話す。
「いや、それは困るっすよ…。」
と苦笑いしながら堀が答えた。
その表情は暗く、なにやら不安に駆られているようだった。
堀の異変、異常に気付いた渠上は、
「…どうした?なんかあったのか?
金返しとくか?俺は急いでねぇし、困ってんなら待つぞ?」
と真剣な顔で、穏やかな口調で話しかけた。
堀は意を決し、友人の身に起きた、謎の現象について話した。
「ほーぅ。そいつぁ面白そうだなー。幽霊の祟りとかなのかね。興味が湧いてきたな。
よし!俺も微力かもしれんが協力するから、その友人とやらの身に起きてる異変をこの目で確かめさせてくれよ。」
「それは構わないっすけど、巻き込まれたりするかもしんねぇっすよ?それに金とかも…」
「いいよー、ロハで。後輩が困ってるんだ、これでも年上だしなー。なんかあったら自己責任!ってことならいいってことだろ?いいよいいよ、どーせヒマだし、こんな機会滅多にないだろうし。つき合わさせてくれな?で、場所はどこにいるんだ?」
「ありがとうございます!立川の胡散臭い医者に預けてあります。」
「立川か…。もう4時だし、とりあえず今日は泊まってけ。んで朝向かえばいいしょ?」
「そっすね、先生にも朝行くと言いましたし。じゃあお邪魔になります!」
二人は就寝の準備をすると、すぐに床に就き寝息を立て始めた。
≪プロローグ1~終~≫